2014年6月25日水曜日

大事なのはルールではなく体? 『モザイクジャパン』が映す、モザイクの向こう側

風俗 de あそぼう♪  モザイクジャパン

「刑法第175条では、性行為を撮影したものを販売することは禁止されている。ところが、レンタル屋に行けばアダルトビデオがある。なぜか。分かるか?」

 九井(高橋一生)は、無造作に一味唐辛子をカップ焼きそばに大量にぶっかけ食らいつきながら、常末(永山絢斗)に問い詰める。

 そして、「モザイクがあるから」と自ら答え、続けた。

「え? モザイクしたからって、本番していることに変わりがないじゃないか。モザイクかけたからって、売っていいっていう法律ないじゃないか。売春は禁止されているのに、ソープランドはある。賭博は禁止されているのに、パチンコ屋はある。なんでだ! どうしてだ!?」

 そんな話をしている中、裸の女性が九井に擦り寄り、愛撫し始める。

「そういう体(てい)でやってますよ、ってことなんだ。ルールじゃない。大事なのは体だ」

 そして、九井は女性を自分の正面に引き寄せると、背後から激しく突くのだった。

 その女性、よく見るとなんと宮地真緒である。宮地がお尻はもちろん、おっぱいまで露出して濡れ場を演じている。「R15+指定相当」のドラマだからそういったシーンはあると予想はしていたが、AV女優などの“脱ぎ要員”がいると勝手に思い込んでいた。だが、それは大きな間違いだった。

 『モザイクジャパン』は、WOWOWで放送されている連続ドラマである。九井が社長を務めるアダルトビデオ制作会社「GALAXYZ」を舞台にしたオリジナルストーリー。脚本は、『Mother』(日本テレビ系)、『それでも、生きてゆく』『最高の離婚』(ともにフジテレビ系)など、近年立て続けに話題作を手がけている坂元裕二が担当している。

 物語は、主人公の常末が“ブラック企業”の証券会社をリストラされ地元に戻り、GALAXYZのFX証券部門に再就職したところから始まる。社長の九井との面接では、いきなり目の前の食べ物を投げろと迫られる。「え、これ食べ物ですよね?」と戸惑う常末に社長は言う。

「眠くなって、読んでた本を枕代わりにしたことないか? 子どものころに紙コップで糸電話を作ったことは? 使い方は自分で自由に決めるんだ。食べ物は、食べるためだけにあるとしか考えられない人間は、うちの会社には必要ありません」

 何も知らずに再就職を果たし初出勤した常末は、隠れて早弁をするOL・桃子(ハマカワフミエ)に一目惚れしてしまう。あるとき、彼女が備品を整理していると、「このボールペン、全然インク出ないよ!」と男性社員が激昂し始めた。そしてあろうことか「謝り方がなってないよ、お尻出して!」と、桃子のお尻を叩き始めたのだ。安いAVのような展開だ。驚く常末を尻目に、何食わぬ顔で仕事するほかの社員たち。ついには「やめてください」と嫌がる桃子のスカートをまくり上げてしまうのだった。我慢できず「あなたのしていることは犯罪ですよ!」と止めに入る常末。だが、困惑したのは桃子だった。

「仕事中です、撮影中です!」

 実は、桃子はGALAXYZ専属の企画単体女優だったのだ。社内では至るところでAVの撮影が行われている。がく然とする常末をよそに、そそくさと撮影を再開する桃子たち。彼女は下着を脱がされ、服を引きちぎられ胸をあらわにされながら、あえぎ声を漏らすのだった。

 桃子を演じるハマカワは、NHK大河ドラマ『八重の桜』や映画『闇金ウシジマくん』、舞台などで活躍する女優。もちろんAVの経験はない。ほかにも数多くのAV女優役が登場するが、そのほとんども宮地やハマカワと同様だ。彼女たちはすべてをさらけ出すように、大胆なセックスシーンを演じている。

 だがもちろん、このドラマの主題はセックスシーンではない。

 GALAXYZはなんの産業もない田舎町・萬曜町にオフィスビルを構え、「アダルトで町おこし」と、この町の住民のほとんどがGALAXYZ関連の仕事に従事している。

「お父さんのモザイクは、ただ消してるだけじゃない。女優さんのいいところを引き出している、って言われてるの」

 と話す常末の父も、モザイク職人だ。

 いわば、萬曜町はアダルト産業に“乗っ取られた”町なのだ。こうした何も資源のない田舎町と新興産業の関係は、ほかにいくらでも思い浮かべることができるだろう。そうした社会構造が抱えている問題も、えぐりだしている。

 そして、このドラマのもうひとつの軸は、常末と桃子のいびつな恋愛模様だ。

「あなたを救いたい。分かります?」とAVを辞めるよう諭す常末に対して、桃子は言う。

「頭のいい人が、頭の悪い人見て、こいつバカだなあって思ってるとき、頭の悪い人も、頭のいい人を見て、こいつバカだなあって思ってるんですよ」

 AVを辞めてもらいたい常末は、大金をかけて彼女をアイドルとして売りだそうとする。だが、彼女がやりたいのはAVだ。そこにしか自分の居場所がないと思っているのだ。お互い惹かれつつもかみ合わない思いが、痛く切ない。

「ハメ撮りしてください」

 そう桃子は常末に迫るのだった。

「この国は棒も穴も、モザイクの向こうに隠す体(てい)がある」と九井は言う。

 今、日本の社会がモザイクで隠しているのはなんなのか。日本の若者たちが抱えている闇はなんなのか。

「穴の奥の奥まで見えそうなヤツ撮ってよ!」

 『モザイクジャパン』は、アダルト産業を舞台にしたドラマという体で、それらを白日のもとに晒そうとしているのだ。




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サイト管理者:庭石 菖



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